2005/05/11

OAA 池村 伊賀

最近の惑星全般に関するアマチュア天文家の観測状況(安達、伊賀、堀川、池村)

内容 ここ10年間ほどで、最近のアマチュアの惑星観測、撮影の状況は、コンピュータ、インターネット、CCD撮像技術  などにより能力が大きくアップし、驚くような観測が画像が捉えられるようになりました。その進歩の状況と アマチュア惑星愛好者として各惑星の注目点などをご紹介します。 99.avi

前半  技術 水星 金星 火星

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●技術

1840年頃からハロゲン化銀による写真術が発明、発表され、世界的には1899年にバーナードがヤーキスの100インチで撮影した火星の写真 が知られています。1926年1927年頃から光量がふんだんにある大望遠鏡で惑星が良く撮影されるようになったと思います。 フィルムのISO感度は、たぶん1〜5〜10。したがって、惑星観測といえば、やはりスケッチが王道でした。 眼視、スケッチでは模様の濃淡は詳しく捉えられますが、模様の位置となると相当の鍛錬を要し、私は同時に写真撮影して比較してみたところ、とてもおぼつかない ことを実感しました。写真は客観的な観測が得られる、ということで、一生懸命写真撮影に努力しましたが、とても眼視に近いイメージに撮影す ることはできませんでした。年間10日撮影ぐらいがせいぜいでした。 1985年以降、カラーフィルムも感度が上がり、ポジフィルムの現像所の対応も早くなり、かなり眼視に近い画像が得られることもありました。 ポジからのプリントは1枚500円と高く、拡大、色調整、濃度調整、プリントのピントなども、不満で、ほとんど満足のいくプリントが出来ませんでした。 フィルムスキャナーも当時は20万円以上と高価で、また、それをきれいにプリントする方法(カラープリンター)もありませんでした。 そのため、カラーポジフィルムで撮影した時期はポジのままで、プリントがほとんど出来ていません。 フィルム撮影では低空は透明度、シーイングが悪いので、撮影しなかったため、大気による色ずれによる画質低下に対策の必要を感じませんでした。 ところが、1994年7月の木星にSL9彗星衝突のとき、低空の木星を撮影する必要がありました。その画像を見ていて、大気による色ずれの影響が大き かったので、これを解決するため、プリズムで補正して撮影するようになりました。  1997年9月21日にデジカメを改造して撮影してみたところ、いきなり画質が向上しました。この日を境に、不満だらけのカラーポジフィルムと決別 となりました。 今振り返ると、カラーポジフィルムでの画像にも、かなり良い画像もあったのですが、画像取り込み、プリントのシステムが充実 してなかったので、観測として利用しにくかったという気がします。  デジカメではメモリーカードに画像ファイルとして取得でき、現像処理、画質向上処理が現像所に頼まなくても、パソコン上で自分で好きなように 出来るし、フィルム代現像代のコストがほとんどかからないし、良い画質のものが得られました。  フィルムではたいへん苦労したコンポジットもパソコン画面上で10枚ほどが1分もかからず、短時間でコンポジット処理できました。 また、撮影後、最短では30分で、観測報告が可能となり、時刻精度10秒を達成できました。 撮影頻度も10倍ほどになりました。 その後2003年3月からインターネット、コンピューターの発達と共に、それに使われる安価なwebカメラが良いということで、1000枚、2000枚という コマ数をコンポジットする方法に至っています。 また、白黒専用のCCDにすれば、さらに受光効率がよく、特殊フィルターを使用して、アマチュアがフィルム撮影ではとても困難だった、紫外線、 あかい光、メタンバンド、1ミクロンなど特殊な画像も手軽に得られるようになりました。 観測報告の形態も大きく変わりました。 スケッチが主流だった頃は、観測者は同好会や観測専門家のところへスケッチを郵送する、観測数や概要を文章で天界などに掲載する。  報告されたものは、同好会の長または受け付けている担当者が保管し、一般的には公開されません。 現在は、インターネットでメールに添付して送信し、受け付けた観測報告はすぐに公開され誰でも、世界中から見えます。 スケッチやプリントが紙面だったものが、電子ファイルへと扱い方が変わってきました。  それらは、原版が劣化の恐れがありません。 コピーしても劣化しません。保管に場所をとりません。保存、整理、検索がたいへん容易にできます。 また、コンパレーターで画像の伸び縮みを気にしながら座標を測定していたことが、拡大してマウスで座標を読み取り、たたちに経度計算できるのは、 大きく様子が変わりました。

●新たに出てきた方法 画像ソフトを使ってスケッチを描いて報告送信する。

   眼視観測後、画像ソフトで仕上げてその場で直ちにメール添付送信報告が可能ですね。    スケッチは、紙に描かなくても、観測報告の形態を考えたら画像ソフトでパソコンで描き、画像ファイルを作るという新しい方法です。    また、紙に描いた場合でも画像部分だけをスキャナで取り込み、観測データー、日時などはパソコンで仕上げ、電子ファイルで保存する    送信報告するという方法も行われています。 アメリカ カルロス−ヘルナンデス 日本ではほとんど行われていません。  紙にスケッチしたもの→イメージスキャナ→メール添付送信 という方法のみのようです。

●最近良く使われているweb(ウエブ)カメラについて

インターネットで動画通信を行うことを目的とした動画撮影用のカメラです。USB接続で、安価です。 惑星撮影のためには、焦点距離約5mmのレンズを取りはずして中身を取り出し、自分で組み立て直します。 価格は2万円程度で日本国内では2003年2月頃から多くのアマチュアが使うようになりました。 これがウエブカメラの市販品 ToUcam です。 中身の肝心な部分はこの基盤だけなので、惑星撮影しやすいように別の箱に組みなおし、フィルターと望遠鏡接続のためのアダプターを 取り付けます。この改造工作はみなさんが自分で好きなようにやっています。    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

●水星

 口径20cm 〜30cmで、アマチュアにより表面模様が撮影されるようになりました。 イタリアで22cmシュミカセで、昼間眼視スケッチをしている人もいる。 撮影は日の出前、日没直後の低空となるので、大気による色分散の影響が大きい。 イタリア マリオ:フラスティ カラーで撮影しても無彩色で色変化がほとんどないことから、最近では緑や赤等の単色で撮影されることが多くなってきました。 webカメラはフィルムより感度が高く、緑、赤のフイルターを使って高速シャッターで多くのコマを得て100〜500枚程度のコンポジットするという方法 が一般的に行われている。 まだ、多くの人が模様がなんとか撮れたという程度で、探査機から得られた水星図との同定までには至っていません。 日本はシーイングが悪くて 困っていますが、模様が撮影された報告画像を蓄積し、分析、同定されるのを待ちましょうという状況です。 2011年には水星探査機 MESSENGER が水星に到達する予定となっています。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

●金星

 1927年ロスがウィルソン山の60インチと100インチの反射望遠鏡で、撮影した金星の紫外線写真があり、模様が得られることは    知られていました。銀塩感光剤は紫外線には良く感光します。 2004/02/04 フランス クリストフ ペリエ この模様は金星の雲の上の変化なので、時間と共に変化し、翌日では形が崩れてしまい、アマチュアでは模様が写った というていどでした。 2004年2月8日の夕空の金星において、イギリスとニューヨークで5時間の時間差を利用して紫外線の金星画像を並べて、移動する様子を捉える 試みが成功しました。 アメリカニューヨーク フランク と イギリス ダミアンピーチ の画像によるものです。 フランクが作りました。 日本による試みはまだ成功していません。ぜひ挑戦したいものです。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 0.8ミクロン以上の波長域の近赤外で撮影すると、紫外線とは異なった模様が写ります。私たちの中では金星の雲の中間部と考えられ、これも 移動しているはずで、0.33ミクロンの上層と0.8〜1.0ミクロンの中間層の二重構造の雲の動きがあるはず、という説(新川さん)があり、 0.8〜1.0ミクロンの雲上の移動変化も捉えたいということで多く撮影されましたが、複数の画像での移動の同定には成功していません。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 2004年5月にインドの口径1mの天文台で2.3ミクロンの赤外線で撮影した金星地表面の模様と思われる画像がインターネットのメールで公開されました。 これを見たフランスのアマチュア天文家クリストフが近赤外線の1ミクロンで撮影し、模様を得ることに成功しました。 それが金星の自転とともに移動していることが確かめられたことから金星地表面の固定的模様であると確認されました。   アマチュアが初めて金星の地表模様の撮影に成功したとのことで、スカイアンドテレスコープ誌で話題にされました。 今後探査機により得られた金星地形図との同定を試みてみたいですが、アマチュアではこのクリストフしか撮影に成功しておらず、私達としては 1ミクロンのフィルターを入手し、撮影できるシステムを得ることが必要です。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------  2004年6月8日に大望の日面通過が起りました。 6月4日  60cm カセグレン 熊森照明さん  日本ではあいにく入梅となり、ここ名古屋では終日雨で観測できませんでしたが、ヨーロッパでは多くのアマチュアも撮影し、スウェーデンの口径1mの 太陽望遠鏡により詳細な撮影が行われました。大気の存在を示す太陽面の模様のゆがみが確認されましたが 期待されたようなブラックドロップの現象は起りませんでした。が、金星大気により、確かな ドロップ現象があることが確認されました。また、第3接触から第4接触の間に金星大気層によるリング も撮影されましたが、これも太陽縁付近の明るさの1/100程度と大変暗いものでした。 次回2012年6月5日にも太陽面通過が起りますが、ぜひ日本全国で晴れてほしいものです。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

●火星

2003年は火星が大きな視直径になり、肉眼等級が木星よりも明るくなったという大望の火星シーズンでしたが、 火星を研究という立場では ちょっと不満がありました。 2003年は、天候が悪く、日本国内では観測数が著しく乏しかったこと。観測期間の前半は画像処理が追い付かなかったことや、 非常に多くの方が同じ機材に傾倒し、かつ、冷却CCDカメラなどの波長別の情報が著しく不足したことが重なり、十分な観測結果が得らなかったように 思います。  砂嵐は中規模ですが、3回ありました。  1回目は2003年7月1日頃ヘラス付近に発生したもので、大きな模様の変化が記録されています。天候の悪い時だったため十分な記録がとれませんでした。  2回目は、7月29日ころオーロラ湾付近に発生したもの。  3回目は、12月9日ころオーロラ湾付近に発生したもので、火星の半周を回る規模でした。 この砂嵐発生の状況はどちらも日本からは見えず、海外からの報告がたいへん役に立ちました。 2003年は超巨大な火星をじっくり観察することができ、また、大規模な砂嵐が無かったこと、多くのアマチュアがwebカメラでの撮影体制が整い、 アマチュア、火星ファンとしては予想以上に詳細な火星画像が得られて楽しむことが出来ました。 ミッチェル山の存在がわかる程度と予想していたものが細長く眉毛のようになって、縮小していく様子や鋭い眼力を持つ人以外は見られなかった 永久南極冠の黄色の姿がアマチュアの撮影でも捉えられました。 久しぶりに自分の望遠鏡で衛星のフォボス、ダイモスも捉えた方がいました。 山崎誠さん 福岡県 福岡市 2004年1月に探査機が2つも火星表面に降り立って、昔、海と呼べるほどの水があった、んじゃないかという確認されました。 また、頻繁につむじ風が起っているようすが撮影されました。 2001年に火星のエドム付近の閃光現象が話題になりましたが、以後閃光が観測されたという報告は無く、正体も未解決のままです。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 後半へ